Friday, October 20, 2017

ここがつらいよジョブ型雇用

前回のポスト、想像していたよりも多くの方に読んでいただけたようでありがたいです。というわけで前回の続きとしてジョブ型雇用社会に身を投じてみて発生した辛さについて。(もちろん良いところもいっぱいあるのですが、良いところはすでに多くの記事で言及されている気がするのと性格が歪んでいるので皆が褒めるものほど悪い部分について話したくなる)

自分で能動的にキャリアをつんでいかなければいけないのでつらい


ジョブ型雇用社会では、異なる幾つかの環境で多様な、でもなおかつ一貫性のある仕事を経験していくことでキャリアを積んでいくのが基本。前回書いたこととも重なるが、ジョブ型の場合は採用された時点である特定のスキルを持っていて、それを活かしてどのような貢献が求めれているかがある程度明確なので、同じポジションにとどまっていると同じことをずっとやりつづけていくか、もしくはその業務は完了して不要になるのでどこか別のことを探してね、というどちらかになりがち。数年間(周りを観察する限りだいたい三年から五年くらい)おなじポジションで成果を出したら、昇進して一段階上のレベルでいままで自分が行っていた業務を管理する側のポジションで働くか、社内または社外で今までの経験を活かして異なるスキルを伸ばす、もしくは管理できる領域の広いポジションを探していく。そのようなスパンでさまざまな会社を経験していきながら、たとえば三度目の職探しのときには大学での専攻、一度目の職務、二度目の職務が一気通貫して活きるようなポジションではないとなかなか採用されづらい。特にシリコンバレーで非エンジニア職だと、アメリカの一流大学または MBA を卒業してこのあたりに仕事を求めてやってくる超優秀人間は大量生産されているので、「職務経験にあんまり一貫性はなくて今回の職務に直結する経験はないけど、まあ優秀な方です、ソフトスキルあります」程度だと、採用側からすると活躍してくれそうな確度は優秀な大学生または MBA ホルダーのほうが高い。

さらにシリコンバレーの企業はどこも変化が非常に激しいので、今自分のいる会社の主力事業が五年後、十年後に何になっていて、自分が今やっている仕事がそのときに必要とされているのか、どのようなスキルがあれば会社に貢献し続けられるのか、確実なことはなにもわからないので、能動的に業界全体の動向や収益性、会社の具体的な方向性について常にアンテナを張っておかないといけない。


マネジメントがまともじゃないとつらい


日本でもアメリカに来てからも、何度か社内転職をしたりあるいは組織改編でチームのマネジメントが変わることがあったが、ジョブ型雇用の会社ではマネジメントがしっかりしたビジョンを持っていないとかなりつらい。採用時のみならず人事評価の場合にも、ジョブ型雇用の会社では、会社全体、組織全体の長期的な目標をもとに、それを達成するためにどのように貢献するかで個々人の目標が設定され、その目標に対する貢献度によって評価される。会社全体、組織全体の明確な目標がない場合、どのように他のチームと役割分担をしながらだれがどの役割を果たしていくのかが明確にならないし、そもそも具体的にどのような人材が必要なのか不明確なので、それこそなんとなく優秀そうな同じようなスキルの人が複数のチームに採用されて、誰が何をやるべきなのかいまいちわからないまま、これお前の仕事じゃないのかよ、とかなんでお前が俺の仕事やってんだよ、とかフラストレーションを溜めながら仕事をすることになる。会社全体のどのような目標に対してどのように貢献しているのかも可視化されづらいので、やりがいも相当少なくなる。で、周囲の人材流動性が高くまわりに採用の口はいくらでもあるので、優秀な人からさきにどんどんと流出していってしまう。人が定着しないのでノウハウもたまらず、組織全体が負のループにはまる。

コネがないとつらい


社内・社外問わず転職活動をするときには、具体的にいままでどのようなポジションでどのような成果を上げてきたのかが最も重要になるわけだが、特に非エンジニア職の場合個々人のアウトプットが具体的な成果物になっていることは少ないので、(偉業をなしとげたチームに所属していたとしても、その人が貢献していたとは限らない)一緒に仕事していた人の口利きが重要になる。さらにその口利きは、同じレベルで仕事をしていた同僚では弱くて、上司、さらにその上の上司あたりが口利きしてくれないと効果が弱い(いわゆるスポンサーシップというやつ)。自分が転職活動をしているときに自分の現在所属する部署の上司やその上司が積極的に自分の転職を支援してくれることはあんまりないので(部署ごとなくなるので全員転職活動しているときとか、別の場所に引っ越す必要があるので仕事探しているとかさまざまな事情でそういうこともあるけど)、過去の上司やその上司がいざというときに口利きしてくれるかどうかが非常に重要。なのでそういう関係性づくりを日頃から心がけていかなければならない。アメリカの採用はコネかよ、、最悪だな、、と思っていた時期もあったが、特にジョブ型採用では、会社のカルチャー、部署のカルチャー、仕事の仕方、特定の職種のチームとスムーズに働いた経験、など多角的な経験がものをいうので、採用する側からすると、一緒に働いたことのある人の口コミほど信頼できる情報はない。実際に、優秀な経歴をお持ちで鳴り物入りで入ってきた人が、チームの働き方に全く合わず即辞めていくことを何度か見ているうちに強くそう思うようになった。



いわゆる日本の大企業に入社して活躍している友人の話を聞くと、いわゆる「出世コース」が用意されていて、何年どの部署でどのような仕事をしたあとは、何年海外で駐在して、日本に戻ってきてこのようなポストに収まって、みたいなパターンがあるようである。変化の少ない業界であれば、会社が長期的な人材育成の面倒をみてくれるのであればそれにこしたことはない。まあその会社がその後も長く同じような人材を必要とするビジネスモデルを維持しているのであれば。

ジョブ型雇用の、そして非常に変化の激しいシリコンバレーの IT 業界では、相当意識的に仕事を選び、コネを作り、他の会社や社内の他の組織がどのように回っているのか常に気にしている必要があるので、そのような「意識の高さ」を維持できる人でないと数年後に今と同じ、あるいは高い給料をもらってやりたいことができている可能性が低くなってしまう。個人的にそれが合うか合わないかは好き好きだし、業界によってはメンバーシップ型のほうが社員の幸福度が高いケースも少なくないのではないだろうか。

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